Renewable H2 Tech Journal

再生可能エネルギー連携水素製造プラントにおける副生成物活用の実務:酸素・排熱利用によるプラント最適化

Tags: 副生成物, 酸素利用, 排熱利用, プラント設計, 経済性

再生可能エネルギー連携水素製造プラントにおける副生成物活用の重要性

再生可能エネルギーを動力源とする水電解による水素製造プラントでは、水素に加え、酸素や熱が副生成物として発生します。これらの副生成物を有効活用することは、プラント全体のエネルギー効率向上、運用コスト削減、収益性向上に大きく貢献し、グリーン水素製造の経済性を改善する上で重要な要素となります。特に大規模プラントにおいては、副生成物のポテンシャルも大きく、その活用戦略がプロジェクトの採算性を左右する可能性もあります。

本記事では、再生可能エネルギー連携水素製造プラントにおいて発生する酸素と熱に焦点を当て、それぞれの活用技術、プラント設計における考慮事項、および経済性への影響について、プラントエンジニアリングの視点から解説します。

再生可能エネルギー連携水素製造における主な副生成物

水電解プロセスでは、電気エネルギーを利用して水を分解し、水素(H₂)と酸素(O₂)を生成します。その反応式は以下の通りです。

2H₂O → 2H₂ + O₂

この電気化学反応と関連するシステム(整流器/PCS、圧縮機など)からは、熱も発生します。副生成物としての酸素と熱の特性は、採用される水電解技術(AEL, PEM, SOECなど)によって異なります。

副生成物:酸素の活用と実務上の留意点

生成された酸素は、適切な処理を行うことで様々な用途に利用可能です。

主な酸素の活用用途

  1. 工業用途: 鉄鋼業(電炉)、化学工業(酸化反応)、パルプ・製紙、ガラス製造など、多くの産業プロセスで空気中の酸素濃度を高めることで燃焼効率向上や反応促進に利用されます。
  2. 医療用途: 呼吸器疾患治療や麻酔などに高純度酸素が用いられます。
  3. 環境用途: 下水処理、水処理(オゾン生成)、排ガス処理などに利用される場合があります。
  4. 燃料電池: 一部の燃料電池(PEFCのカソード側など)で酸化剤として利用されます。
  5. 水産養殖: 養殖池の溶存酸素濃度向上に利用されます。

プラントにおける酸素取り扱いと設計上の考慮点

酸素を製品として販売または利用するためには、以下の点に留意したシステム設計が必要です。

副生成物:排熱の活用と実務上の留意点

水素製造プラントから発生する熱も、温度レベルに応じて多様な用途に利用可能です。

主な排熱の活用用途

  1. プラント内利用:
    • 電解槽への供給水の予熱(特にSOECなど高温系)
    • ガス精製・乾燥プロセスの加熱
    • 建屋の冷暖房(吸収式冷凍機などと組み合わせ)
  2. プラント外利用:
    • 地域熱供給システムへの供給
    • 近隣産業プロセス(製鉄、化学、食品、繊維など)への熱供給
    • 農業・園芸施設(温室など)への熱供給
    • 有機ランキンサイクル(ORC)等による小規模発電

プラントにおける排熱利用と設計上の考慮点

排熱を有効活用するためには、以下の点を検討します。

副生成物活用を考慮したプラント設計と経済性への影響

副生成物の活用は、プラントの初期設計段階から統合的に検討されるべき事項です。

まとめ

再生可能エネルギー連携水素製造プラントにおける酸素や熱といった副生成物の活用は、プロジェクトの経済性向上と環境負荷低減に寄与する重要な戦略です。酸素利用では純度管理、貯蔵・輸送、そして安定的な需要確保が、排熱利用では温度レベルと熱需要とのマッチング、そして熱輸送がそれぞれ課題となります。

これらの副生成物活用は、単体の技術導入に留まらず、プラント全体のシステムインテグレーションとして初期設計段階から検討されるべきです。周辺地域の需要調査、必要な設備仕様、安全対策、および経済性評価を総合的に行うことで、副生成物活用のポテンシャルを最大限に引き出し、グリーン水素製造プロジェクトの競争力強化に繋げることが期待されます。

今後の技術開発や市場整備により、副生成物の新たな活用方法やより効率的な回収・利用技術が登場することで、その経済的価値はさらに高まる可能性があります。プラントエンジニアリングの専門家としては、こうした最新動向を常に注視し、それぞれのプロジェクトに最適な副生成物活用戦略を立案・実行していくことが求められます。